飛浩隆の初期作品集。
飛浩隆といえば個人的には日本SFを読み始めた頃に円城塔、伊藤計劃との3人セットで読んでいた記憶がある。
まぁ神林長平は別格として、その3人がなんていうか若手?現役?的なイメージで読んでいた。
実際には飛浩隆はめちゃくちゃに寡作だし、デビューは古いのだけれどもね。
んで本書はもともとは同タイトルで初期作品+批評集成という構成で
出版されていたものを分割&文庫化したもののうち、フィクションをまとめたものが本書。
また『SFにさよならをいう方法』という本では、批評、随筆、エッセイをまとめている。
ラインナップ
- 星窓Complete Box
- ポリフォニック・イリュージョン
- 異本:猿の手
- 地球の裔
- いとしのジェリィ
- 夢みる檻
- 星窓
- BONUS TRUCK
- 洋服
- 洋服(二)
- #金の匙
- おはようケンちゃん
- 食パンの悪魔
特に面白かったのは、表題作の「ポリフォニック・イリュージョン」、「いとしのジェリィ」、「夢みる檻」。
ポリフォニック・イリュージョン
男女が朝起きてからデートに向かうまでの準備中の描写から始まる。
それぞれの視点で、起きて顔洗って朝ごはん用意してって当たり前の朝の風景のはずなのに、
部屋のインテリアが急に男の部屋になったり、準備したご飯が女のものになったりと
どんどん視点が混線していく。ものすごく淡々としているのに最初に読んだときなんでかわからないが
鳥肌が立ってしょうがなかった。SFちっくな自分好みのオチで満足。
いとしのジェリィ
突然変異により遺伝子ごとフリークになってしまう?世界で、スライムみたいな
遺伝子を修理してくれる生き物と会話する主人公。
印象としてはよくある人形になっていちゃいちゃするスライムの画像的なイメージ。
溶け合うイメージでなんとなく好き。
夢みる檻
繰り返し繰り返しあるイメージを再生し続ける主人公。
ある事故により主人公は記憶を再生するための神経組織が、正確にはシナプスに走る電流が失われつつある。
それを防ぐため夢を見ている。その夢に出てくる女の人が魅力的で素晴らしい。
仮想の存在があたかも実在しているかのような、またその存在が人の中で単なるイメージではなく、
ひとつの存在として大きい位置を占めているような、言葉にするのが難しいけど
そんなものが大好きなので、これはぐっときた。
というわけで、ポリフォニック・イリュージョンでした。
飛浩隆を知っている人はぜひおすすめ。著者自身による解題も読めるのでファンにはたまらない一冊です。
でも読んだことない人には少し重いかな。結構熱い?重い?濃厚な解題なので、引いてしまう可能性。
気になった人は、ぜひ短編集の『象られた力』か、『グラン・ヴァカンス』をぜひ読んでください。